6・  



 「しかし、ユース様がそんな夢を見ていると知ったら、捨ててはおけないわね。いくら忘れてしまうとは言っても…」

 そう、今日はもともとその話をするため時間をとっていただいたのでした。
 しかし、さきほどからの話の中から一つ、私は仮説を考えていました。涙を拭いて、しっかりと顔を上げます。

 「かえでさん、呪術師はどこにいるんです?」

 彼女と『魂を自由にさせる』という契約を結んだという呪術師が、現在、幽鬼の状態でいるかえでさんを利用しているとは考えられないか。私はそう仮定してみたのです。
 かえでさんは戸惑う様子一つ見せず、こう答えました。

 「死んだわ」
 「えっ?」
 「殺したの」
 「な、なぜ…」
 「言ったでしょ。こんなことは誰にも知られたくない。ヒトとして許されないことだって。それに…」

 少し間をとって、かえでさんは続けました。

 「個人的に恨みもあったしね」
 「……」
 「私が14の時のことだけどね。例のあざを治したくて、さんざん医者めぐりしたあげくに、とうとう呪術師まで頼るはめになったのよ。
 そしたら『この子は30までは生きない。子供も作れない。腹の中がおかしくなっている。だんだん内側から駄目になって、30まではもたずに死ぬ』って言ったの。その時のわたし、14歳よぉ?聞いた時はもう怖くて怖くて」
 「……」
 「でも治す方法はあるって言われてね、その方法というのが例の呪術だったわけよ」
 「……」
 「そんな方法なら知りたくなかった。知らずにいたら、こんな浅ましい身でこの世に留まることもなかっただろうし、なんとか希望を持って、寿命が尽きるまでまっとうに生きることができたかもしれないし。
 でも知ってしまったから。
 ……知りたくなかったわ。聞きたくなかった。自分から治りたい、聞きたいと言っておきながら、ね。バチ当たりは百も承知で、恨んだわ。憎んだわ。殺したのはそういう理由よ」

 恨みを語っているとは思えぬ静かな声でした。


 ――『人を殺した。そしてその肉を切って食った』


 もしや、と思いました。

 「その呪術師も印の子だったのではありませんか?」
 「ご名答。さすが名軍師」

 ああ、ではその呪術師を殺して……。

 「私が思うに、ユースが夢を見るのは、やはりその呪術師のせいではないでしょうか」
 「もう死んでいるのに?」
 「術者自身は死んでも、契約自体はまだ生きているのではありませんか?」
 「ああ、なるほど……」

 かえでさんは、得たり、という表情で笑いました。

 「そうかそうか。なるほどね、契約自体はまだ生きているんだわ。あはは。私は魂を売ったんだものね。知らないうちに操られているのかもしれないわね。
 私が殺した呪術師が、私を恨んで、この魂をのっとろうとでもしてるのかしら」


 ――あれは妹じゃない、油断するな、油断するな――


 「生前の貴女とは何かが違うと、何人かは気付いています」
 「そう」
 「でも私は貴女が好きです」
 「ありがとう」
 「気をつけてください。貴女の心一つでユースへの影響も変わってくるはずです。私を貴女の敵にはしないでください」
 「わかったわ」

 不意に会話は止まり、どちらともなく、月を見上げました。

 『おーちゃんの髪は月の色ね。光を浴びて散らして、宝石みたいね』

 そう言って、幼い私の髪をといてくれた夜と、よく似た月が出ていました。