| この記録は、少し読めばとんでもない内容だということがわかると思います。 まず王国軍側が「反逆者」である同盟軍を受け入れようとしていた事実。いかに印の子が戦力的価値があるからといって、逆賊をわざわざ迎え入れようなどという考えがあるでしょうか。内部崩壊の種を植え付けるようなものです。 一人二人の優れた将をというなら例がないこともありませんが、100を超える人数、しかも内乱を起こした中枢人物、しかも一人一人が将軍にも等しい力を持っているというのに、そのすべてを吸収しようなどとは、誰が考えたものでしょう。 そしてかえでさん側からの発言、「私も含めた15名」という部分。わざわざ自軍の残りの戦力を、しかも真実の人数を明かす人がいるでしょうか。わざと少なく言うことで相手を油断させるか、わざと多く言う事で混乱させるかと普通なら考えるでしょう。 しかし、この「15名」という言葉が本当であったことは、乱が平定したあと、遺体の数を数えて判明しました。 『私の死体はどうなったのかしらね……クスクス……』 うるさいうるさい。資料に残っているのよ、ちゃんと15人分の遺体を回収したと! ――私たちは印の子であり、異端なのです。もう耐えたくはありません。 ――いいや、耐えていただく。 かえでさんは印の子として、女として、苦しみの連続の人生でした。「もう耐えたくない」という妹に対して「耐えろ」という兄。これはどんなに苦しくても生きていてほしいという、肉親だからこその言葉とは考えられないでしょうか。 私はこの部分で、“悲しみ”を知りました。同じ血を受けて生まれながら、どうしてこんなになるまで何もできなかったのだろう。 生きることが苦痛でしかなくなっていた妹。 それでも生きていてほしいという兄。 誰がこの人たちを責められる…? 『でも私を殺したのは兄様よ……クスクスクス……』 うるさいうるさいうるさい!!そんなことは資料を細かく読めば分かる!!とっくに知ってる!! 知って……知っていて…誰にも言わないだけよ。誰に言えるの。誰に…。それに、言ってなんになるというの…。 「3時間かけて説得されたんだけどねぇ…やっぱりみんなの代表として行った身分としては、頑固になるしかないじゃない、ねぇ」 「は…」 「けっこう優しい人もいたっけね。私が片足だから、ちょっとふらふらしてたのよ。目もかたっぽ潰れてたし。そしたら『大丈夫ですか』って杖を貸そうとしてくれた人とか、手を貸そうとしてくれた人とかがいたの。さすがに敵でもこんだけ怪我した女が相手じゃ紳士にもなるわよね」 かえでさんがケラケラと笑います。 そうですね。私も片足だからわかります。 ――私たちは印の子であり、異端なのです。 ――お前が死ねばよかったんだ!!! そうです。私たちは印の子です。異端です。それゆえにシルシの乱は起こったのです。「もう耐えたくない」という言葉。そうです。それまで我慢に我慢を重ねて生きてきた印の子たちが、初めて自己主張をした、それがシルシの乱でした。 その中心にかえでさんはいました。 『印の子を利用するこの国が憎い。この身が憎い。血、血がこびりついてがとれないよ。あの呪術師さえいなければ。私は人の肉を食ったよ。きっとうまく死ねない。先生、先生どうしよう。影がついてくる。怖いよ。兄様に会いたい。大事な子供達。もっと歌を歌いたい。ああ、ああ、ああ、ああ、ああ。』 「うるさい!!」 「おーちゃん?」 声、声が出てしまった。 ――かえでさん、聞いてる?聞こえてる?私の声。声にならない私の声。 聞こえるわけがないじゃない。超能力者じゃあるまいし。ちゃんと口にださなきゃダメなのよ。そうでしょう? カイェク先生もかえでさんもそうだった。言わなきゃダメなの。伝わらないの。ちゃんと言葉にして。口に出して! 「私…私の足は…。この顔の傷は……かえでさん」 かえでさんは黙って聞いてくれました。 |