7・追求




 宝物蔵に入り化け物を解剖したカイェクは、禍鳥の腹の中から、茶色で短い髪の束、茶色の瞳の眼球を一つ、ソバカスの散った顔面の皮膚の一部を見つけました。これらはヒサギのものです。この時点でヒサギの死が確定されました。
 そして、この禍鳥の腹におさまっていた人体の量から考えると、これは一人分であろうと予測されました。つまり、少なくともユースは宝物蔵から逃げ出すことができた。おそらく、誰かはわからないがかなりの実力者に助けられた。もしその人物に殺されていなければ、ユースもどこかで生きている。国宝である宝剣については、ユースが持っているか、禍鳥を倒したその謎の人物が持っているか。

 これらのことをカイェクはハルニスの家に帰って少年警官に報告しました(少年警官は部下と一緒におとなしく待っていた模様)。少年警官は複雑な表情でそれを聞いていました。宝物蔵から帰って来たカイェクからは例の臭いがするらしく、説明する彼の目を見ようともしませんでした。

 「では、ヒサギ・ハルニスは死亡していると」
 「そうです」
 「ユースタット・ジムは」
 「わかりません。可能性はいくつかありますが」
 「どんな」
 「とにかくあの子だけ化け物から逃げることができた。誰かに助けられて、どこかで生きているという可能性が一つ目。しかしその“誰か”が凶悪な人物だった場合、ユースも殺されているかもしれない。そういう可能性が二つ目…」
 「生きているにしても死んでいるにしても、どこかで見つかるはずだろう!どこへ行ったんだ!」
 「それより聞きたいことがいくつかある」

 カイェクが少年警官の目を見ました。少年警官の喉の奥から「うっ」という音がしました。目をそらそうとする少年警官の首根っこをつかみ、自分のほうに顔を向けさせ、カイェクは怒鳴りました。

 「こっちは聞きたいことがあると言ってるんだ!耳が悪いのか頭が悪いのか知らんが、人の上に立とうってんなら耳が腐り落ちそうな事実だろうがデタラメだろうが聞いてやろうってくらいの度胸を持たんか!昨今の監察都市じゃどんな調教やってんだ!!お前はどんな教育されてここへ来たんだ!!なんの覚悟持ってここへ来たんだ!!お前と同じくらいの年の子が死んだんだぞ!!」
 「……」
 「聞く気があるのか無いのかどっちだ。聞く気があるなら座れ」

 カイェクは椅子を差し出しました。少年警官は唇を噛みながら黙って座りました。
 助手はこの二人にお茶を出し、二階に上がらせておいた子供たち(シュウ含む)に昼食を持っていきました。

 「セイ兄、ヒサギとユースは?」
 「あー、まだわかんねーんだ。今さ、下で話してるから、お前ら邪魔すんなよ」
 「二人とも死んじゃった?」
 「それもわかってねーよ。それより昼飯食っとけ」
 「生きてるよね?」
 「まだわかんねーんだって」
 「二人ともどっかに隠れてるんだよね?」
 「あーそうかもなー」
 「セイ兄は食べないの?」
 「俺はもう食ったからいいんだよ」

 子供達はそれ以上あまり話もせずに昼食を食べました。助手(セイ)は禍鳥の解剖に立ち会った一人でしたが、さすがにあの状態で見つかったヒサギのことを考えると食欲が出ませんでした。
 ハルニスの家を取り巻いていた人々も、お昼だからかもういなくなっていました。宝物蔵へ連れて行ってくれた警官は、禍鳥の腹の中身を見てとうとう倒れてしまったので、神殿の人たちに任せてきました。目が覚めたらハルニスの家へ来るようにとの伝言を頼んであります。

 一階ではカイェクが少年警官にいろいろと尋問していました。

 「まず、なぜ警察はあの化け物を倒した“第三者”の可能性を考えなかったんだ?」
 「……ユースタット・ジムが倒したのだろうと考えたからだ」
 「んな馬鹿な。まだ12の子があんな熊みたいのを殺せるなんて本気で思ったのか」
 「だってあなたは“印の子”でしょう」

 少年警官の顔が意地悪くゆがみました。カイェクが登場して以来やりこめられ続けてきた彼でしたが、やっと反撃できたという顔でした。少年警官にとって、形勢逆転の一言だったのでしょう。

 「ユースタット・ジムはカイェク・ジム…あなたの実子だと聞いている。印の子であるあなたの実の子供ならああいう化け物を倒すことも…」
 「ど阿呆」
 「なっ……」

 形勢、変わりませんでした。
 カイェクは大きなため息をつき、むしろ少年警官の情勢は悪化したようです。

 「本当にどうなってんだ?お前さんいくつなんだ」
 「じゅ、十五だが……」
 「十五…ヒサギと同じ年か。で、監察都市での成績は?」
 「首席だ。だから今回の騒動では最年少で責任者に抜擢され…」
 「うわー…最っ悪だな」
 「なんだと!」

 カイェクは特に少年警官をいびるつもりではなく、本当に「最悪だ」と思ったから口に出てしまっただけなのですが、彼を怒らせるには十分でした。

 「あのな、印の子の能力は遺伝しないぞ」
 「えっ?」
 「私は確かに印の子だが、息子は普通の人間だ。多少体術や剣を教えたこともあるが、それでも実力は年相応といったところだ。まあ同い年の子とケンカしたとして、勝率は六、七割ってとこだろう。こんな基本的なことも知らなかったのか?」
 「そ…そんな報告は…」
 「情報なんてのは自分で靴の底が磨り減るまで歩き回って探し回ってやっと見つけるもんだ。それですらつかんだ情報がガセだってこともある。お前さん、情報だの報告だの、ただ待ってただけで知ったつもりになってたんだろう。だからタチが悪いんだ。だから最低だと言ったんだ。坊ちゃんがよ」
 「な、な…」

 神殿に幽霊が出る、という騒ぎが起こったとき、神殿に忍び込む者が出てきました。最初は地元レトメーデの警察が見張っていたのですが、なぜかそこへこの少年を含む三名の警官が監察都市から派遣されてきました。それ以来一切の指揮はこの少年警官がとることになったのです。支神長やその補佐たちから話してくれたいきさつでした。
 この警官たちは収穫祭初日に起こった事件のために来たのではなく、そのずっと前に起こっていた幽霊騒ぎのために派遣されてきたわけです。どうりで行動が早いはずでした。

 それにしてもカイェクは口が悪くなってきています。ヒサギとこの少年が同い年であることを知って、何か思うところでもあったのでしょうか。単に地が出てきているだけなのでしょうか。

 カイェクは簡単に昼食を摂ると、強引に少年警官を連れ出してまた神殿に向かいました。すっかり影が薄くなっていますが、少年警官にはもう一人の部下がいます。その警官も慌ててついてきました。こちらは二十前くらいの青年でした。少年警官と青年警官を連れて、カイェクが向かったのは、今度は例の裏口でした。

 通路に入り、明かりをつけました。足元を見ると、ガラス玉があちこちに目じるしのように落ちています。「こうやって進んでいったわけか…考えたな」とつぶやき、カイェクは通路の壁にある文字を見ました。少年警官はカイェクが不思議な文字の解読ができるらしいと分かり、驚いて聞きました。

 「その文字が読めるのか」
 「まあだいたい読める」
 「どこの文字だ」
 「私の生まれ故郷の古語だ。これを読める人間はもう数人ってとこだろう。あとは物好きな言語学者とかが研究しててくれればこの文字は生き残るかもしれないな…」
 「なんて書いてあるんだ」
 「おい、この通路は通らないほうがいいぞ」
 「なぜだ」
 「いやここにそう書いてあるんだ。“おい、この通路は通らないほうがいいぞ”って」

 警官二人がコケました。

 「ふざけるな!!」
 「別に私はふざけちゃいない。これを書いた人に言ってくれ。しかしお茶目だなぁ」
 「もういい!!なんのためにここへ連れて来たんだ!!」
 「実はお前さんには用は無い。そっちの警官に用がある」
 「え、僕ですか?」

 これまで影のようになっていた青年警官は、突然指名されて驚いたようでした。

 「君はこの坊ちゃんの警護ってとこだろう」
 「はぁ…そうです」
 「だからこの坊ちゃんから離れられなかったんだ。この坊ちゃんを引っ張ってくれば君も付いてくるだろうと思ってな。それと、君は印の子だろう」
 「は、はい」
 「同族はわかるんだ。悪いが力を貸してもらう」

 あまり自分に期待されていないことを悟った少年警官がそこへ割り込んで来ました。

 「私の部下を勝手に使うな!」
 「この通路を見つけたのはこの子だろ?」
 「え、ああ。そうだけど…」
 「悪いが坊ちゃんには用は無い。これから宝剣を探しに行くが、そこでおとなしく待ってるか付いてくるか選べ」
 「行くに決まってるだろう!!」
 「あ、そう」

 言うが早いかカイェクは青年警官を連れてスタスタ行ってしまいました。そして少年警官には聞こえないようにして青年警官に「ユースの居所を知っているだろう」と言いました。青年警官はぎょっとしてカイェクから離れようとしましたが、がっちり襟をつかまれて逃げられませんでした。彼は「居場所だけわかればいい。その後はまかせろ」と言われ、怯えながらもカイェクに協力してくれました。

 この青年によってユースがいるらしき場所はほどなく見つかりました。この通路の中の、ガラス玉が三つ落ちているところでした。これはユースとヒサギが考えた「この先ぐるぐる回るだけ」という印でしたが、カイェクや警官たちにはその意味は伝わりませんでした。
 ヒサギたちが「この先ぐるぐる回るだけ」という印(ガラス玉三つ)をつけたのは、つまり「一回りして同じところへ戻ってきてしまうから進んでも仕方がないよ」という意味でした。しかし、青年警官はここでユースの通った痕跡が消えているから、ここにいるのではと言いました。

 ガラス玉三つの意味。「この先ぐるぐる回るだけ」の意味。同じところを一回りしてしまうということは、通路に囲まれた大きな空間があるという意味です。その内部にユースがいるのではないか、とこっそり青年警官は言いました。カイェク「わかった、ありがとう」と言って彼を解放しました。

 「今日はこのくらいにしておこう。迷ったら困るからな。じゃあ帰ろう」
 「待て!宝剣はどうなった!?」
 「明日だ明日」

 そうして三人は引き上げて行きました。カイェクは中にユースがいるかもしれない、という壁を一度だけ振り返って外へ出ました。